相続税のエピソード

なぜ相続税の節税対策が必要なのか、その重要性について、あるエピソードをもとにご紹介することにします。

1 三代で相続財産はなくなる

自分の財産を、自分の子孫のためにできるだけ多く残しておきたいというのは、親として、また人として当然の感情です。ところが、相続税のシステムというのは、この感情に反する仕組みになっているようです。

よく、「相続が三代続くと財産はなくなる。」と言われていますが、この言葉は相続税のシステムをまことにうまく言い当てています。

相続税は、相続した財産の金額が多ければ多いほど、税率が高くなる累進税率になっています。相続によって取得した財産が、3億円を超える部分については、50%の税率で税金がかかってきます。

相続税の最高税率が引き下げられたといっても、財産の5割近くを相続税で持っていかれるのではたまりません。日本の相続税は、世界で最も高い部類に属しているのです。

ただし、相続税には節税の余地がかなりあります。所得税や法人税と比べると、節税対策のやりやすい税金なのです。

したがって、「何も対策を立てないでいると三代で財産がなくなるが、しっかりした相続税の節税対策を立てておけば、子孫に財産を残すことができる」のです。

2 エピソード「梨田家と有田家」

これから、相続税の節税対策をした人としない人では、どれだけ違うかを事例で紹介いたします。相続税をはらうため、住みなれた家や土地を手放すことが問題となった東京の都心での話です。

東京都千代田区に二つの家族がありました。20年以上も前のことです。仮に、相続税の節税対策をしなかった「梨田家」と相続税の節税対策をした「有田家」としておきます。両家とも資産家で、広い庭付きの豪邸に住んでいました。両家とも敷地だけで300坪近くもあったようです。

●相続税の節税対策をしなかった梨田家の場合

 梨田家は教職一家で、祖父は永らく学校長をしていました。仕事柄もあってか梨田家は税金には無頓着のようでした。

そんな梨田家に、やがて相続の日がやってきました。祖父の残した財産は、家屋敷を中心に数十億円と評価されました。その妻である祖母は、家と敷地の半分を中心に相続し、残りの財産を子供達で分けました。これにかかった相続税は、10億円を軽く超えていました。そんな現金があるはずもなく、敷地の半分を処分して税金を払うことにしたのです。

その2年後には、祖母もなくなりました。祖父が亡くなったときには「配偶者の税額軽減」という特例があったため、敷地の半分を残すことができましたが、このときには特例も使えず、相続税を支払うために残った家屋敷を処分せざるを得ませんでした。

そして残ったお金で、東京の郊外に新しく家を買い求めました。梨田家の財産はだいぶ減ってしまいました。

場所は都心から離れ、家も小さくなりました。それでも一般の家庭から見れば、梨田家はまだまだ資産家であることに変りはありません。

その後に、バブル経済がやってきて、梨田家の敷地も急激に上昇し、かなりの金額で評価されるようになりました。少なくともこのときに、梨田家でも相続税の研究をしておくべきでしたが、何もなされませんでした。

バブル経済の真っただ中、不幸にも梨田家の父親がなくなりました。東京の郊外といっても、100坪を超える土地がありましたので、数億円の相続税がかかりました。

そのため、東京の郊外の土地もまた売却して、相続税を支払わざるを得ませんでした。

梨田家の長男は、その残ったお金で埼玉県に家を買い、現在そこに住んでいます。三代の相続で財産がなくなるといいますが、三代どころか二代で、東京都心から郊外へ、さらに埼玉県へと住居が移り、移るごとに家が小さくなっていきました。相続があるたびに財産が減っていき、住み慣れた家屋敷を手放し、生まれ育った都心から離れた所へ移り住むという大変な苦労を味わいました。

●相続税の節税対策をした有田家の場合

さて、一方の有田家の祖父は、銀行に勤務していたこともあって、財産管理とか税金対策といったことに、関心が深かったようです。有田家は梨田家と500mも離れていないところにあります。

有田家でもこの約20年の間に、梨田家と同じように、祖父が亡くなり、祖母も亡くなり、また父親もなくなりました。ところが有田家では、現在も同じ場所に住んでいます。

有田家ほどの財産があるならば、これだけの対策で済むはずはありません。数十年にもわたって「生前贈与」を繰り返し、またあらゆる相続税対策を考え、実施してきたとも聞きます。

3 相続税の節税対策はやった者勝ち

20年ほど前は、同じくらいの財産家であった梨田家と有田家です。しかし、何の相続税対策もしなかった梨田家はその地から消えてなくなり、万全の相続税対策をした有田家は、財産家としてその地に残り、地域の有力者としてなお存在しているのです。

同じ財産の家族で、相続税の節税対策をしたかしないかによって、こんなに差が出てしまうのは不公平だと思われるかも知れません。税金は、本来、すべての人に公平にかかるべきものであるはずです。

ところが、有田家は税金をごまかしていたわけでもなく、財産を隠していたわけでもありません。相続税法に従って、ちゃんと税金を計算して納めているのです。

梨田家も有田家も、相続税法の規定に従って公平に税金を納めているのです。相続税法に不備があるとか、税務署に怠慢があったというわけでもありません。

ただ有田家では、相続税を実によく研究し、節税対策を実施していたということなのです。

4 相続税に対する関心や知識が少ないから問題

梨田家が相続のときになくしたのは、財産だけでしたので、まだ良い方かもしれません。なかには財産だけでなく、相続争いから親戚をなくした人もいます。

さらに、相続税問題から心労で寿命を縮めてしまった人もいますし、命をなくしてしまった人もいます。

梨田家をはじめとする「相続税による悲劇」は、相続や相続税に対する知識のなさからくることが多いのです。

それも無理はありません。所得税であれば、毎月の源泉徴収とか、毎年の確定申告でなじみがあります。

しかし、相続税は一生に一度だけの問題で、ふだんのつきあいがありません。これでは、相続税に関心が薄くなるのもしかたありません。

しかし、よく考えてみてください。

ある程度の財産があると、相続税の金額は所得税とはケタが違います。毎年100万円の所得税を払っているとします。1年に100万円の所得税というと、かなりの負担であるはずです。これを30年間払いつづけると3000万円になります。こうなると大変な金額です。

ところが、都心にふつうの家を一軒持っているだけで、これくらいの相続税は、軽くかかってしまいます。相続税がいかに大変な金額になるかわかると思います。