毎月支払う給与と違って、賞与については、労働基準法などの法律によって、会社にその支払いが義務づけられているというわけではありません。したがって、会社は賞与を支払ってもよいし、支払わなくてもよいのです。どちらでもかまいません。
賞与を支払うかどうか、賞与の支給対象者、賞与の計算期間と支給基準などについては、就業規則などに定められます。会社の業績によっては賞与を支給できない場合もあるので、就業規則などに「・・・・・・に賞与を支給する」といった記載ではなく、「・・・・・・に賞与を支給することができる」といった記載のしかたをすることもあります。
賞与の支給額が決定したら、毎月の給与計算と同じように、社会保険料や所得税などの控除をして差引支給額を計算します。ただし、控除項目と控除額の求め方は、賞与と毎月の給与では違いがありますので注意してください。
まず、控除項目についてですが、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料および所得税は、賞与からも控除されますが、住民税については控除がありません。協定控除については、毎月の給与の場合と同じように、書面による労使協定が結ばれている場合のみ、控除することができます。
次に、控除額の求め方ですが、健康保険料、厚生年金保険料および所得税については、毎月の給与の場合とは異なります。雇用保険料については毎月の給与と同じように控除額を求めます。
なお、労災保険については全額会社が負担するため、毎月の給与の場合と同じく、従業員の賞与から控除することはありません。
毎月の給与から控除する健康保険料と厚生年金保険料については、標準報酬月額を基準にして、「標準報酬月額及び保険料額表」より求めます。
賞与から控除する健康保険料と厚生年金保険料の求め方は、支払回数によって異なります。
年4回以上の賞与を支払う場合には、その賞与は標準報酬月額を決めるときの報酬月額に含まれます。したがって、その賞与の健康保険料と厚生年金保険料分については、毎月の給与から控除される金額に含まれていますので、賞与を支払ったときに控除する必要がありません。
これに対し、年3回以下の賞与を支払う場合には、標準報酬月額を決めるときの報酬月額に含まれていないため、その賞与を支払うつど、保険料を徴収することになっています。
計算の基礎額は、毎月の給与では標準報酬月額でしたが、賞与の場合には 実際に支払われた賞与額から1000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」として決定し、保険料率を掛けて求めます。健康保険は、各都道府県の保険料率(千葉県は1000分の94.4)介護保険は、1000分の15.1厚生年金は、1000分の160.58を掛けた金額となります。1円未満の端数が生じた場合には50銭未満切捨て、50銭以上1円に切り上げます。賞与にかかる保険料についても、毎月分の保険料と同じく会社と従業員が折半して負担します。
会社が賞与を支払った場合には、年金事務所(健康保険組合)に「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を、賞与の支払日から5日以内に提出することになっています。
雇用保険料についても、賞与を支払うつど、その賞与から控除することになっています。賞与を支払ったときの雇用保険料の控除は、毎月の給与から控除するときと同じように行います。
賞与の支給総額に保険料率を掛けて控除額を求めます。
賞与の支給総額に掛ける保険料率は、一般の事業で1000分の6、農林水産・清酒製造の事業および建設の事業では1000分の7です。控除すべき保険料に1円未満の端数が生じた場合は、50銭未満切り捨て、50銭以上1円に切り上げにします。こうして計算した控除額が従業員の負担分となります。
保険料の負担は会社にもあり、一般の事業では1000分の9.5、農林水産・清酒製造の事業では1000分の10.5、建設の事業では1000分の11.5を会社が負担します。従業員の負担分と会社の負担分の合計を納入することになります。なお、4月1日(保険年度の初日)において、満64歳以上の従業員の雇用保険料は免除となりますので、控除の必要はありません。
賞与から控除する源泉所得税を求めるには、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使用します。ただし、①前月中に給与の支払がない場合、②賞与の金額が前月中の給与の金額の10倍を超える場合には、月額表を使用して税額を求めます。
前月の給与の支払がないなどで、前月の給与の10倍を超える賞与を支給するのは、まれなことで、ほとんどの賞与は、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表を使用して税額を求めることになります。
この算出率の表にも月額表と同じく甲欄と乙欄があって、扶養控除申告書等を提出している人には甲欄を適用し、提出していない人には乙欄を適用します。しかし、算出率の表には、月額表とはしくみが異なり、したがって使い方も異なります。
賞与から控除する源泉所得税は、「賞与の支給総額から社会保険料を控除した後の金額」に「税率(賞与の金額に乗ずべき率)」を掛けて求めます。
税率は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使用して、扶養親族等の数と前月の社会保険料控除後の給与等の金額を基準に、次のように求めます。
(1)扶養控除等申告書を提出している人の場合
①まず、提出されている「給与所得者の扶養控除等申告書」により扶養親族等の数を確認し、「算出率の表」の扶養親族等の数の該当する欄を求めます。
②次に、前月の給与台帳により社会保険料控除後の給与等の金額を確認し、「算出率の表」の「前月の社会保険料控除後の給与等の金額」に該当する行(金額区分)を求めます。
③そして、②で求めた行の左端に「賞与の金額に乗ずべき率」の欄があり、そこに示されているパーセントで示された数字が税率となります。
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に扶養親族等の数ごとに「○○千円以上○○千円未満」と示されている金額は、賞与の金額ではなく、前月の社会保険料控除後の給与等の金額ですので注意してください。
(2)扶養控除等申告書を提出していない人の場合
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していない人は、乙欄を適用して、前月の社会保険料控除後の給与等の金額が241千円未満の場合は10%、241千円以上305千円未満の場合は20%、305千円以上563千円未満の場合は30%、563千円以上の場合は38%が税率となります。
なお、算出率の表には、税率(賞与の金額に乗ずべき率)0%というのがありますが、これは源泉徴収税はないということです。また、甲欄の扶養親族等の数が7人を超えた場合の計算方法は、月額表のときとは異なり、7人を何人超えても七人以上の欄を使用することになります。
前月中の給与等の金額がない場合(前月中の給与等の金額が社会保険料の金額以下の場合も含む)には、月額表を使って、次のように税額を求めます。
①まず、社会保険料控除後の賞与の金額を、その賞与の計算の基礎となった期間の月数で割ります。例えば、賞与の計算基礎期間が6ヵ月であれば、賞与の金額を6で割ります。
②次に、①で求めた金額を月額表に当てはめて、毎月の給与から源泉徴収したのと同じように税額を求めます。
③そして、②で求めた税額に賞与の計算の基礎となった期間の月数を掛けます。これが賞与から控除される所得税額です。
また、賞与の金額(社会保険料控除後)が前月中の給与等の金額(社会保険料控除後)の10倍を超える場合には、月額表を使って、次のように税額を求めます。
①まず、社会保険料控除後の賞与の金額を、その賞与の計算の基礎となった期間の月数で割ります。例えば、賞与の計算基礎期間が12ヵ月であれば、賞与の金額を12で割ります。
②次に、①で求めた金額と前月の社会保険料控除後の給与等の金額の合計額をその月の社会保険料控除後の給与等の金額として、月額表に当てはめて、毎月の給与から源泉徴収したのと同じように、税額を求めます。
③そして、②で求めた税額から前月中に給与を支払ったときの税額を差し引き、その金額に賞与の計算の基礎となった期間の月数を掛けます。これが賞与から控除される所得税額です。
賞与も毎月の給与とほぼ同じく、労働基準法の「賃金の支払いの原則」に従って行なわれることになります。ただし、五原則のうち、毎月払いの原則と一定期払いの原則は、賞与については適用されません。
賞与の差引支給額は、①通貨で、②直接従業員に、③その全額を支払うことになります。
健康保険および厚生年金保険の対象となる賞与を支払った場合には、支払日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を年金事務所(健康保険組合)に提出することになっています。
年金事務所(健康保険組合)は、この届にもとづいて保険料を計算し、翌月の保険料納入告知書で一般の保険料と一緒に通知しますので、毎月の一般保険料と合算して、翌月末までに納付することになります。
なお、健康保険および厚生年金保険の一般保険料は、資格喪失(退職)月については保険料の負担はありません。
賞与から控除した雇用保険料も、毎月の給与から控除する雇用保険料と同じく、賞与を支払う度に納付することはありません。毎年1回、5月に給与から控除したものと一緒に納付します。
(4)源泉所得税の納付賞与を支払ったときに源泉徴収した所得税は、その月に支払った給与から源泉徴収した所得税を納付するのと同じ納付書を使い、一緒に納付することになります。納付書には、「損金処分賞与」という欄がありますので、従業員の賞与からの源泉所得税については、ここに記入します。
賞与を支払った月の翌月10日までに原則として納付しますが、納期の特例を受けている場合にはその期日(7月10日または1月20日)までに納付することになります。
退職金についても賞与と同じく、労働基準法などの法律によって、その支払いが義務づけられているわけではありません。しかし、多くの会社では、退職金を支払っているようです。
会社が退職金を支払う場合、その金額の計算基準や支給方法については、就業規則や給与規定または退職金規定に定めることになっています。したがって、その内容は会社によってさまざまです。退職金の計算をするときには、就業規則などで会社の退職金の計算に関するルールを確かめてください。
退職を起因として一時的に受ける退職手当、一時恩給またはこれらの性質を有するものを退職所得といいますが、退職所得は毎月の給与や賞与からなる給与所得とは区別しなければなりません。というのは、退職所得は永年にわたって勤務したことに対する報酬とか、退職後の生活保障などという特殊な性格があるため、給与所得とは所得税・住民税の課税のしかたが異なるからです。
したがって、退職所得と給与所得は明確に区別しなければなりません。
賞与のように退職を起因とし支払われるわけではないものは、たとえ退職したときに支払ったとしても退職所得にはなりません。また、退職金という名目で支払われても、その支払いを受けた従業員が退職しないで引き続き働いている場合には、退職所得ではなく賞与として扱われます。
他方、労働基準法の規定によって、予告なしに解雇される場合に支払われる予告手当は退職を起因とするものなので退職手当に該当します。
就業規則などに基づいて支給すべき退職金の額を計算したら、源泉所得税と住民税の控除を行ないます。そのほか退職所得の源泉徴収票の作成と提出が必要になります。
退職金には、社会保険料がかかりません。つまり、賞与のように、退職金から健康保険料・厚生年金保険料の控除、雇用保険料の控除をすることはありません。
退職金は、永年にわたる勤務に対する報酬とか退職後の生活保障などの目的で支給されるものであるため、毎月の給与・賞与とは異なった課税のしかたがなされ、税金の負担が軽くなっています。
退職所得にかかる所得税は、退職金の支給総額から退職所得控除額を差し引いた後に、二分の一を掛け、その金額に、所得税の税率を適用して求めます。この金額を退職金から源泉徴収することになるわけです。
退職所得控除額は、勤続年数によって求め方が異なります。勤続年数が二〇年以下の場合には、四〇万円に勤続年数を掛けた額です。ただし、その金額が八〇万未満の場合には、八〇万円が退職所得控除額となります。勤続年数が二〇年を超える場合には、七〇万円に勤続年数を掛けた金額から六〇〇万円を差し引いた額が退職所得控除額となります。障害者になったことを起因として退職した場合には、それぞれ一〇〇万円をプラスします。
なお、ここでいう勤続年数は、会社の給与規定や退職金規定などで定める勤続年数とは異なり、会社に入社した日から退職した日までの期間のことで一年未満の期間については切り上げて一年とします。この勤続年数には、見習社員であった期間、長期欠勤や休職した期間も含まれます。
退職所得控除額を差し引いた後の金額を課税退職所得金額といいますが、この金額の計算ができれば、控除すべき所得税額は、「退職所得の源泉徴収税の速算表」を使って、簡単に求められます。
退職所得控除を受けるためには、退職金を受け取る従業員が会社に対して、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払時までに提出する必要があります。
この申告書の提出がない場合には、退職所得控除を受けることができず、退職金の支給総額に一律二〇%を掛けた金額を源泉徴収することになりますので注意してください。
毎月の給与から控除する住民税は、市区町村がその金額を決定して会社に通知してきますが、退職金から控除する住民税は、会社で計算して市区町村に届け出ることになります。
また、給与所得にかかる住民税は、今年の所得にかかわるものを翌年に控除するのが原則ですが、退職所得については、退職金を支払ったときに税額を徴収することになります。
このような退職金から住民税を控除することを住民税の特別徴収といい、こうして算出された住民税を「分離課税に係る所得割」と呼んでいます。
退職金にかかる住民税額は、退職金の支給総額から退職所得控除額を差し引いた金額について、「退職所得に対する市町村民税及び道府県民税の特別徴収税額表」を適用して求めます。
退職所得控除額は、勤続年数に応じて定められていて、所得税の場合とまったく同じです。
ただし、所得税の場合は、退職所得控除額を差し引いた後の金額を二分の一にしてから、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」を適用して税額を求めましたが、住民税の場合は、退職所得控除額を差し引いた金額そのもの(二分の一にする前の金額)について、「特別徴収税額表」を適用して税額を求めます。というのは、この「特別徴収税額表」に記載されている市町村民税と道府県民税は、「退職所得控除額控除後の退職手当等の金額」の二分の一が課税されるとした場合の税額ですので、それが求める税額になるというわけです。
退職金から住民税の特別徴収をする際には、退職する従業員から「退職所得申告書」を提出してもらう必要があります。ただし、この申告書は、所得税の申告書と同じ用紙(一枚で二つの申告書を兼ねている)ですので、あらためて提出してもらう必要がありません。
もっとも、住民税については、「退職所得申告書」の提出がなかった場合でも、提出があった場合と同様に特別徴収すればよいことになっています。
退職金についても、賞与と同じく、①通貨で、②直接従業員に、③その全額を支払うのが原則となっています。
ただし、退職金については、通貨払いの原則の例外として、従業員の同意があれば、銀行その他の金融機関が支払人として振り出した小切手や支払い保証した小切手、または郵便為替を交付することも認められます。退職金は、毎月の給与や賞与と違って金額が大きくなる場合があるので、現金以外の支払いが認められているのです。
退職金から控除した源泉所得税も、毎月の給与や賞与から控除した源泉所得税と同じく、納付書を使って、支払った日の翌日一〇日までに納付することになります。
納付書には、「俸給・給料等」、「損金処分賞与」のほかに「退職手当等」という欄がありますので、ここに必要事項を記入して、毎月の給与から控除した源泉所得税などと一緒に納付します。
納期の特例の適用をうけている場合には、所定の期日(七月一〇日または一月二〇日)までに納付することになります。
住民税については、原則として支払った日の翌月一〇日までに、退職した年の一月一日現在における住所が所在する市区町村に納付することになっています。
納付にあたっては、「市町村民税・道府県民税納入告知書」に必要事項を記入して、これに住民税に相当する現金を添えて、銀行などの金融機関に払い込みます。
従業員が一〇人未満で市区町村長の承認を受けている場合には、毎月の給与や賞与の場合と同じく、所定の期日(六月一〇日または一二月一〇日)までに納めればよいことになっています。
退職金を支払った場合には、退職後一ヵ月以内に、「退職所得の源泉徴収票」を作成して、退職した従業員本人に交付しなければなりません。
さらに、退職者が会社の役員の場合には、税務署と市区町村へ、翌年一月三一日までに、退職所得の源泉徴収票を提出する必要があります。
この源泉徴収票は三枚一組になっていて、一枚を本人に交付し、必要があればほかの二枚を税務署と市区町村に提出することになります。市区町村に提出するのは特別徴収票と呼んでいますが、内容は源泉徴収票と同じです。