給与計算のことなら  千葉給与計算代行センター

給与計算のための基礎知識と準備手続

1. 給与計算事務の範囲はここまで

◎給与計算は事前の準備から年末調整まで

給与計算というと、狭い意味では、各社員の給与の総支給額を計算し、そこから社会保険料や所得税・住民税などの控除額を差し引いて、毎月の給与や賞与の支給額を計算することをいいます。

この給与計算を行うためには、事前に就業規則の作成や人事情報の収集、社会保険の手続きなどが必要になります。支給額を計算した後にはその支払い、社会保険料の納付、所得税 ・住民税の納付をしなければなりません。さらに給与には退職金も含まれます。

また、各社員への給与の最終的な支給額は年末調整によって確定します。

したがって、広い意味での給与計算事務は、給与計算のための準備手続き、毎月の給与支給額の計算、賞与支給額の計算、退職金支給額の計算、それら支給額の支払い、社会保険料や所得税等の納付、年末調整をも含んだものとなります。

2. 就業規則や給与規定を確認する

◎給与支給に関するルールは就業規則や給与規定に定められる

給与の決定・計算のしかた、支払方法、締日・支払日などの給与の支給に関するルールは就業規則に定められることになっています。したがって、給与計算をするためには、就業規則の中身を確認しておく必要があります。

就業規則には給与に関する事項のほか、従業員が会社で働く上での労働条件や従業員が守るべき事項などが定められています。就業規則の作成が義務付けられているのは、常時10人以上の従業員を使用している事業所です。就業規則を作成したら、従業員代表の意見を聴き、その意見書を添付して労働基準監督署に届け出ることになっています。

就業規則に記載する事項は、図表のように絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項、任意的記載事項の3つに分けられます。

会社によっては、就業規則のほかに、給与規定を別に定め、給与に関する手続や基準をさらに細く規定していることもあります。

なお、従業員が10人未満の事業場では、就業規則の作成や提出が義務付けられていません。

しかし、就業規則は給与の支給に関するルールというだけでなく、労働条件や職場の規律を定めたものなので、作成して従業員がいつでも内容を確認できるようにしておくべきでしょう。

3. 給与明細書・給与台帳を揃える

◎市販されているものを使うか、会社独自のものを作成する

給与計算を行なうため、またその結果を給与を受け取る従業員に知らせるために必要となるのが給与明細です。会社によっては、給与明細書とか給料支払明細書などといろいろな名称を使うことがありますが、本書では給与明細書で統一します。

給与計算の多くの作業は、この給与明細書に必要な事項を記入することによって行なわれます。給与明細書の用紙は市販されていますので、これを購入して使用している会社が多いようです。

給与明細書に記載される項目を大別すると、①労働日数、労働時間、残業時間など、②基本給や各種手当などの給与の支給総額、③社会保険、所得税、住民税などの給与から控除する項目、④給与の差引支給額の4つです。各種手当などは自社で記入できるようになっています。

会社によっては、自社にあった給与明細書を独自に作成して、使っているところもあります。

労働基準法では、賃金台帳(一般的には給与台帳といいますので以下この名称で統一します)を作成して3年間保存することが義務付けられています。給与明細書と給与台帳は、ほぼ同じ内容のことが記載されます。

給与明細書と給与台帳を別々に作成するのは手間がかかるため、複写式の給与明細書を使って、その内に一枚を従業員に渡し、残りを会社保存用の給与台帳としているのが一般的です。

4. タイムカードまたは出勤簿を揃える

◎残業手当や給与カットなどの基礎資料となる

給与総額の中には、基本給や家族手当などの固定的な給与だけでなく、残業手当、深夜労働手当、休日労働手当などの変動的な給与があり、これらは労働時間数によってその金額が決まります。

また、欠勤や遅刻・早退があったときには、給与カットが行なわれることもあり、そのためには出勤・欠勤日数、労働時間数などのデータが必要になります。

出勤・欠勤の状況、労働日数、労働時間数など給与計算を行なうために必要となる基礎データを把握するために必要となるのがタイムカードや出勤簿です。

出勤簿では、手作業で出社時刻や退社時刻が記入されることになります。その記録にもとづいて出勤・欠勤日数、残業時間などを集計します。

従業員数が多いため、手作業で煩わしいという会社ではタイムレコーダを使用すると便利です。

これを使えば、出社時刻と退社時刻は簡単にタイムカードに記録されます。これにもとづいて出勤簿と同じように、手作業で出勤・欠勤日数、残業時間数などを集計することになります。最近では、労働時間数などの集計もできる電子タイムレコーダも普及しています。

いずれにしても給与の締切日の翌日には、出勤簿により、あるいはタイムカードを回収することにより、労働日数や労働時間数を集計しておく必要があります。

5. 社会保険について

◎5種類の社会保険の概要を知っておく


(1)健康保険

健康保険は、病気やケガをしたときの医療費等の保険給付を目的とするもので、常時1人以上の従業員を使用する会社と、常時五人以上の従業員を使用する個人経営の事業所に適用されます。

保険料は、原則として会社と従業員が折半して負担します。従業員の負担する分は給与から天引きして、会社負担分と合わせて毎月納付します。

(2)介護保険

平成12年4月から始まった介護保険制度による介護保険の保険料は、40歳以上の人につき、健康保険料と一緒に天引きされ、納付されることになります。

(3)厚生年金保険

厚生年金は、老齢になったときの年金給付や障害・死亡時の年金や一時金の給付を目的とするもので、健康保険の適用事業所が、そのまま厚生年金保険の適用事業所となります。

厚生年金保険料も、原則として会社と従業員が折半して負担し、従業員の負担分は天引きします。

保険料は会社で一括して、健康保険料とともに毎月納入します。

(4)雇用保険

主に失業したときの保険給付などを目的とするものです。従業員を一人でも雇用していれば、雇用保険に加入することになっています。

保険料は会社と従業員が一定割合で負担します。雇用保険料は原則毎年1回、5月に納入します。

(5)労災保険

業務上または通勤途上で従業員がケガをしたり病気になったときに、保険給付を行なうことを目的としたものです。従業員を1人でも雇っていればこれに加入します。

保険料はその全額を会社が負担し、雇用保険と一緒に毎年5月に納入します。

6. 所得税と給与所得のあらまし

◎給与所得は源泉徴収と年末調整がポイント

個人に所得があると、所得税法という法律によって所得税がかかることになっています。所得は、次の10種類に分けられます。

① 利子所得
② 配当所得
③ 不動産所得
④ 事業所特
⑤ 給与所得
⑥ 退職所得
⑦ 山林所得
⑧ 譲渡所得
⑨ 一時所得
⑩ 雑所得

これらの所得について、その収入から必要経費を差し引いたものを合計し、そこから社会保険料や生命保険料などの所得控除を差し引いた金額に対して、所得税がかかるのです。

所得の計算期間は、1月1日から12月31日までの一年間で、この期間の所得とそれにかかる所得税を、翌年の2月16日から3月15日までに、所轄の税務署に申告し、その税額をおさめることになります。所得税は、このように自分で自分の所得を計算し、確定申告して納税するという「申告納税制度」が原則となっています。

ただし、サラリーマンが受け取る給料のような給与所得については、会社が従業員に支払う給料から所得税を天引きして、その税金を従業員個人の代わりに納付することになっています。これを「源泉徴収制度」といいます。

源泉徴収制度では、会社が毎年、年末になると各従業員の給与所得の金額を確定させて、年税額を計算し、すでに徴収した税額との差額を調整することになります。これを年末調整といいます。
この源泉徴収や年末調整をするのが、給与計算担当者の仕事です。したがって、給与計算担当者は非常に責任の重い任務を担っているのです。

●源泉徴収していても確定申告が必要なとき

会社が従業員個人の代わりに、税額を計算し、納税することになるので、従業員は、原則として確定申告する必要がありません。

ただし、医療費控除など年末調整では控除できない所得控除や税額控除があった人、給与所得以外の所得が20万円を超える人、年収が2000万円を超える人、二ヵ所以上から給与をもらっている人などは、自分で確定申告をすることになっています。

●給与所得の金額の計算のしかた

給与所得の金額は、給与の収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算します。

金銭で毎月支払う給料や賞与だけでなく、現物給与も給与に含まれ、また、手当とか俸給、賃金といった名称で支給されるものも給与に該当します。従業員が会社から受け取る利益を総称して給与というのです。これらを合計したものが給与の収入金額です。

給与所得控除額とは、給与所得者の必要経費に該当するものです。事業を営んでいる人は、その事業の収入を得るためにかかった費用を、収入から差し引くことができます。これが必要経費ですが、給与所得者については、このような必要経費が認められていません。そこで必要経費の代わりに、給与の収入金額に応じて、一律に収入金額から一定額の控除を認めようというのが、給与所得控除額なのです。

●給与所得の金額から所得控除を差し引く

給与所得の金額から14種類の所得控除を差し引き、その差引後の金額に所得税の税率をかけて、納付すべき所得税額を計算します。

所得控除の代表的なものに扶養控除と配偶者控除があります。扶養の対象となる家族が多いほど扶養控除の金額が大きくなり、所得税が少なくなります。

所得控除には、そのほか社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除などがあります。

源泉徴収の際は、扶養控除、配偶者控除、社会保険料控除などは考慮されて、給与から天引きされる税額が決められています。

生命保険料控除や損害保険料控除は源泉徴収の際に考慮されておらず、そのためもあって年末調整が必要になるのです。

なお、会社をやめた従業員に退職金を支払った場合も、原則として会社が源泉徴収することになっています。ただし、退職金は、給与所得とは別に、退職所得として所得税額を計算することになっていて、その計算のしかたも給与所得とは異なります。

7. 扶養控除等申告書の提出を受ける

◎申告書は源泉徴収をするために必要となってくる


●給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

源泉徴収税額は扶養親族等が何人いるかによって違ってきます。したがって給与計算をするためには扶養親族等の数を確認しておく必要があります。そのための資料となるのが「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。

扶養控除等申告書は、従業員(給与の支払いを受ける人)が会社(給与の支払者)に提出します。

この申告書の宛先は税務署長殿となっていて、本来は会社を経由して所轄の税務署長に提出すべきものですが、実務上はその提出を省略して会社で保管しておけばよいことになっています。

この申告書は、毎年1月分の給与(中途採用者について採用後最初に支払う給与)を支払う前日までに提出してもらうことになっています。実務的には、ほとんどの会社がその前年12月の年末調整の時に他の資料と一緒に提出してもらっています。結婚や出産などによって、いったん申告した扶養親族等に異動があった場合には、異動後最初に給与の支払をする前日までに再度提出してもらうことになります。

なお、扶養親族のいない人も提出してもらう必要があります。この申告書の提出がないと、税額表は乙欄の適用となり、源泉所得税が高くなります。

また、扶養控除等申告書は、同時に2ヵ所以上のところへは提出できません。二つ以上の会社から給料をもらっている人は、給与の金額が最も多い会社に提出することになります。この場合に申告書を提出した会社の給与を主たる給与といい、その他の給与を従たる給与といいます。

申告書の用紙は税務署に備えてあって、必要な人は誰でももらうことができます。

●申告書への記載

「申告についての注意」、「控除対象配偶者、扶養親族等の範囲」、「記載についての注意」などについては、申告書の下の方および裏面に書いてありますので、一度読んでおいてください。

ここでは記載のしかたなどについて簡単に説明します。


(1)氏名、住所等の記入

申告書の上の方の欄のうち、「給与の支払者の名称」と「給与の支払者の所在地」には会社名と会社の住所を記入します。給与計算の担当者がここに会社名と住所のスタンプを押して、各従業員に配布し、その他の欄には自分で記入してもらうようにしてください。本人の押印も必要です。

扶養親族等がいなくて、従業員本人が障害者、老年者、寡婦(夫)または勤労学生のいずれかにも該当しない場合には、これで記入は終わりです。以下の欄には記入する必要がありません。


(2)A控除対象配偶者

控除対象配偶者とは、従業員本人と生計を同じくする配偶者で、その年の所得の見積額は38万円以下(パート収入だけの場合には収入が103万円以下)の人をいいます。これに該当する場合には、氏名、生年月日、職業、住所および年間所得の見積額を記入します。

控除対象配偶者のうち、その年の12月31日現在で70歳以上の人は、老人控除対象配偶者に該当しますので、「老」の文字をマルで囲みます。


(3)B扶養親族

扶養親族とは、従業員本人と生計を同じくする親族で、その年の所得の見積額が38万円以下の人をいいます。扶養親族がいる場合には、その氏名、続柄、生年月日、職業、住所および年間所得の見積額を記入します。

扶養親族のうち、その年の12月31日現在で16歳以上23歳未満の人は、特定扶養親族になりますので、「特」の文字をマルで囲みます。

扶養家族のうち、その年の12月31日現在で70歳以上の人は、老人扶養親族になりますので、 「老」の文字をマルで囲みます。さらに老人扶養親族のうち、従業員本人またはその配偶者の直系尊属で同居を常況としている人は、同居老親等になりますので、同居老親等の欄にマルを付けます。

(4)C障害者等

1障害者・・・・・・従業員本人、配偶者または扶養親族が障害者手帳の交付を受けている場合などに、ここの表の該当するところにマルを付けるか、人数を記入します。さらに「障害者等の内容」の欄に心神喪失、知的障害などその障害の状態または交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度などを記入します。

2老年者、3寡婦、4特別の寡婦、5寡夫、6勤労学生・・・・・・従業員本人がこれらに該当する場合には、その該当するところにマルを付けます。

の障害者等の詳しい内容については、第六章年末調整のやり方を参照してください。

(5)D他の所得者が控除を受ける扶養親族等

同一生計の家族内に二人以上の所得者がいる場合、扶養親族を所得者に分けて扶養控除の対象にすることができます。この場合に所得者の扶養親族にした者の氏名などを記入します。

(6)E従たる給与から控除を受ける扶養親族等

二ヵ所以上から給与の支払いを受け、一ヵ所から受ける給与だけでは扶養控除などの控除の金額が控除しきれない場合には、扶養親族等を分けて他の給与の支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出することができます。この申告書を提出した場合に、その扶養親族の氏名などをこの欄に記入します。

8. 源泉徴収税額表を用意する

◎所得税は源泉徴収税額表に基づいて天引きする

給与を支払う際に、給与の支払者は源泉徴収することになっています。そのときにいくら源泉徴収するかを表しているのが、「源泉徴収税額表」です。この表は毎年税務署から送られてきます。

源泉徴収税額表には、「月額表」、「日額表」、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」などがあります。

●月額表と日額表

月額表を使うか日額表を使うかは、給与の支給のしかたによって決まります。

多くの会社で採用している月給制の場合には月額表を使用します。日給月給制のように日額いくらと決まっていて、それを1ヶ月ごとに支給する場合も月額表です。

そのほか、半月ごと、あるいは10日ごとに支払う場合、3ヶ月に1回、6ヶ月に1回、1年に1回など月の整数倍の期間ごとに支払う場合、前月中に普通給与の支払がない場合、賞与の支給でその額が前年中の普通給与の10倍を超える場合には月額表を使用します。

それ以外は日額表を使用します。日給制で給与が支払われるとき、週給制で給与が毎週支払われるとき、日雇いの給与をその日ごとに支払う場合などです。そのほか月給制となっている場合であっても、給与の計算期間の中途で就職や退職をしたために日割計算して支給される給与については、日額表を使用します。ただし、日割計算をした結果その日数がたまたま10日とか半月になった場合には、月額表を使用してよいことになっています。

●甲欄、乙欄、丙欄

源泉徴収税額表の月額表をみると甲欄と乙欄があります。日額表には甲欄と乙欄のほか丙欄があります。月額表でも日額表でも、甲欄は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に適用します。乙欄は、「給与所得者の扶養控除申告書」を提出していない人、および「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出している人に適用します。

月額表、日額表ともに、甲欄の税額よりも乙欄の税額の方がずっと多くなっています。これは甲欄の税額がほかに給与がないことを前提にしたものであるに対し、乙欄の税額はほかに主たる給与があり、従たる給与について源泉徴収すべき金額を定めているからです。所得税の税率は累進税率になっているため、給与が多いほど源泉徴収すべき金額も大きくなるというわけです。

なお、甲欄は、扶養親族等の数(〇人から7人)によって税額が8つに分類されていて、その数が多いほど税額は少なくなっています。

日額表にある丙欄は、日雇いされている人に給与を支払うときに使用されるものです。

9. 住民税のしくみ

◎従業員の住民税は給与から天引き

市区町村民税と都道府県税をあわせて住民税と呼んでいます。

住民税には、所得金額の多少にかかわらず一定の税額を納税する均等割と、所得金額を基礎にして税額が計算される所得割があり、その合計額を納付することになります。

●給与支払報告書にもとづいて計算される

会社は、毎年1月31日までに、従業員の住所地の市区町村に給与支払報告書を提出することになっています。この給与支払報告書は、源泉徴収票とまったく同じもので、会社が前年一年間に支払った給与等をもとに作成したものです。

市区町村は給与支払報告書をもとに、各従業員の住民税額を計算し、会社に通知します。所得税は当年の所得に対して当年の税額が計算されますが、住民税は所得税と違い前年の所得をもとにして当年の税額が計算されます。

なお、自営業者等の住民税は、税務署に提出した所得税の確定申告書をもとに市区町村が計算します。

●特別徴収と普通徴収

市区町村が住民税を徴収する方法には、特別徴収と普通徴収の二つの方法があります。

特別徴収は、給与所得者に対する徴収方法で、会社などの給与の支払者(特別徴収義務者といいます)が給与を支払うときに住民税を天引し、それを従業員に代わって納付する方法です。

普通徴収は、自営業者など一般の納税者に対する徴収方法で、納税者本人に納税通知書を送付し、それにもとづいて本人が納付する方法です。

なお、住民税の課税と徴収については、市区町村が道府県民税の分もあわせて担当していますので、窓口は市区町村になります。

10.給与計算は各種の法律にしたがって行なう

◎就業規則や給与規定だけではない給与計算のルール

給与計算は、就業規則や給与規定にもとづいて行なわれることを説明しましたが、それだけではなくいろいろな法律の規制を受けて行なわれます。具体的には、労働基準法、健康保険法、介護保険法、厚生年金保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律、所得税法、地方税法といった法律です。

このうち最も重要なのが労働基準法です。労働基準法は、賃金、労働時間、休暇などの労働条件の最低基準を定めている法律です。就業規則は労働基準法の規定にしたがって作成されます。時間外労働や休日労働したときの割増賃金の計算のしかたや賃金カットできる範囲、給与の支払いについての五原則とか、労働時間・休憩・休日・および年次有給休暇な給与計算に関係の深い内容が定められています。

その他の法律は、主に給与の支払額から控除する項目(社会保険料、所得税、住民税)について規定しているものです。

ところで、給与のことを賃金とか報酬といったり、従業員のことを使用人とか労働者といったりします。これは法律によってその呼び方が違うからです。

11.給与となるもの、ならないもの

◎現金で支払うものだけが給与ではない

毎月支払う給料や年に2回程度支払う賞与については、所得税の課税対象となり、支払いの際に源泉徴収をしなければなりません。

給与となるのは、このように金銭で支給するものに限らず、金銭以外のもの又は権利その他の経済的利益があった場合には、所得税が課税されることになっています。いわゆる現物給与です。例えば、社宅の提供、食事の支給、資産の無償貸与、無利息の貸付、物品の支給などです。これらの経済的利益については、給与の支給を受けたのと実質的に同じ効果があるために課税されるのです。

また、給与以外の名目で支払う金銭についても、給与の支給を受けたのと同様の経済的効果があったものとして、給与とみなされることがあります。例えば、社員旅行の不参加者に、旅行費用相当額を金銭で支払う場合などです。

他方、金銭で支給されるものであっても、通勤手当のように所得税が課税されない非課税給与もあります。

給与計算担当者は、給与となるものとならないもの、課税給与と非課税給与の区別、経済的利益の非課税限度額についても確認しておく必要があります。

毎月支払う給与の計算事務

1. 毎月行なう給与計算関係事務のあらまし

◎給与明細書の作成から社会保険料・税金の納付まで

毎月行なう給与計算関係事務としては、給与明細書の作成、差引支給額の支払、社会保険料の納付、所得税・住民税の納付などがあります。

(1)給与明細書の作成

給与明細書を作成することによって給与計算が行なわれます。まず、最初に計算するのが支給総額です。
 支給総額は、基本給などの固定的なものについて定められた金額を記入し、残業手当などの毎月変動するものについてはそのつど計算して記入します。
 支給総額を記入したら、次に控除額を記入します。控除額の一番目は社会保険料です。社会保険料のうち、健康保険料及び介護保険料と厚生年金保険料は、標準報酬をもとに保険料の金額が決まっていますので、その金額を記入します。雇用保険料は毎月変動する可能性がありますので、毎月計算します。
 控除項目の二番目は源泉所得税です。源泉所得税は、給与の支給額から健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料を差し引き、その差し引き後の金額に該当する税額を記入します。
 控除項目の三番目は住民税です。住民税の金額は市区町村から通知を受けますので、その金額をそのまま記入します。
 控除項目の四番目として、社宅費などの協定控除が差し引かれることもあります。
 給与の支給総額から四つの控除項目を差し引き、給与の差引支給額を計算します。これで給与明細書の出来上がりです。

(2)差引支給額の支払い

給与明細書を作成することによって計算した給与の差引き支給額を、会社で定められた給料日に各従業員に支払います。会社によっては、現金で支払うこともありますし、銀行振込みにすることもあります。

(3)健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料の納付

健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料は、社会保険事務所から送られてくる納入告知書に基づいて納付することになります。当月分を翌月末日までに納付することになっています。
 納付すべき金額は従業員から天引きした保険料と会社負担額の合計額です。

(4)源泉所得税の納付

従業員から天引きした源泉所得税を、報酬・料金等の源泉所得税などとともに、当月分を原則として翌日10日までに納付します。税務署から送られてくる源泉所得税の納付書に必要事項を記入して、税務署または銀行等の金融機関で納付することになります。

(5)住民税の納付

従業員から天引きした住民税を各市区町村へ、当月分を原則として翌月10日までに納付します。
 納付額が記入された納付書が送られてきますので、その納付書を使って銀行等で納付することになります。

2. 給与支給総額を計算する

◎給与支給総額の計算は給与計算事務のかなめ

給与計算で最も重要なのは給与支給総額の計算です。給与支給総額の計算に誤りがあると支給額が違ってくることはもちろん、源泉所得税や雇用保険料の金額も給与支給額にもとづいて計算されますので、これらにも影響があります。
 給与支給総額を正確に計算するためには、給与体系を確認しておくことと、割増賃金の計算のしかたを理解することが大切です。

●給与体系を確認する

会社が支給する給与が、どのような項目で構成されているのかを表すのが給与体系です。一般的には、基本給と諸手当があって、これらを体系的に分類したものです。なかには基本給だけで手当のない会社もありますし、数多くの手当を支給している会社もあります。会社の規模、業種、業績などに応じ、自分の会社に適した給与体系が出来上がっているものと思われます。
 給与体系の一例としては、毎月の給与を基本給と諸手当に分け、諸手当を役職手当、資格手当、家族手当、住宅手当などの固定的手当と、時間害労働手当、休日労働手当、深夜労働手当、精勤皆勤手当などの変動的手当に分けている会社が多いようです。
 手当の種類がこれより多いこともありますし、少ないこともあります。手当の名称も会社によってさまざまです。自社の給与体系を確認してください。給与体系は就業規則や給与規定で定められているはずです。
 給与計算をする上で大切なことは、給与体系のなかで、毎月の給与を固定的給与と変動的給与に分けることです。固定的給与は、原則として毎月同じ金額なので、前月の金額をそのまま給与明細書に記入するだけで出来上がりです。
 変動的給与(手当)は、出退勤状況により毎月異なってきますので面倒です。これを計算するためには、出勤簿やタイムレコーダーによって、会社の定めた給与計算期間の労働時間の集計を行なわなければなりません。

●割増賃金等の計算

変動的手当の計算にあたっては、労働基準法の制約を受けます。
 時間外労働手当については通常の労働時間の賃金計算額の25%以上、休日労働については35%以上を支払わなければならないことになっています。時間外労働が午後10時から翌朝5時までの深夜労働にかかればその部分の割増率は50%以上となっています。

3. 通勤手当の支給と所得税の取扱い

◎通勤手当は一定金額までは所得税がかからない

通勤手当については、他の諸手当と違って、税務上特別な取扱いがあります。
 通勤手当は、法律上、支給してもしなくてもどちらでもかまいませんが、ほとんどの会社では通勤手当を支給しているようです。
 また、通勤手当の支給額や支給方法も会社によってさまざまです。定期代の実費を支給することもありますし、一定限度の範囲内に限って定期代の実費を支給することもあります。一律に毎月一定額を支給することもあります。一ヶ月分の定期代を毎月支給することもありますし、定期代が安くなるように三ヶ月とか六ヶ月の定期代をまとめて払うこともあります。
 就業規則や給与規定で、通勤手当を支給する旨や支給方法が定められていれば、それにしたがって支給することになります。
 通勤手当は他の諸手当と違って、一定金額までは所得税がかかりません。バスや電車などを利用する人に支給する通勤手当は、その社員が通勤するのにかかる運賃、時間、距離などの事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤経路および方法による運賃の額は、月10万円を限度として、所得税がかからないことになっています。
 したがって、源泉所得税を計算するときの給与支給総額には、通勤手当の非課税限度が含まれませんので注意してください。
 なお、通勤手当は所得税が非課税となっている部分についても、健康保険料、厚生年金保険料および雇用保険料の対象になりますので注意してください。
 ところで、各社員ごとの通勤手当は本人の申請にもとづいて決められますが、その際に通勤手当の金額を正確に把握するため、通勤手当の支給申請書を提出してもらうとよいでしょう。この申請書の特に定められた様式はありませんので、各会社で管理しやすいように作成するとよいでしょう。

4. 社会保険料を控除する

◎社会保険料は給与支給総額からまず最初に控除する

給与支給総額から控除する社会保険料には、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料および雇用保険料の四つがあります。
 社会保険にはこれら4つ以外に労災保険があります。ただし、労災保険料は事業主だけが負担し、従業員は負担する必要がないので、ここでの説明は省略します。

(1)健康保険料および介護保険料の控除

健康保険は、従業員やその家族が病気になったりケガをしたときに、診療、薬剤の支給、手術等のときに保険給付が行なわれるものです。一般保険の保険料率は8.2%で、標準報酬月額に8.2%を掛けた額が月額保険料となり、これを会社(事業主)と従業員(被保険者)が折半して負担します。
 従業員負担分を給与支給総額から控除することになります。
 介護保険は、寝たきりや痴呆などで介護が必要になればそのサービスが受けられるもので、平成12年4月から始まりました。
 介護保険料は、健康保険に加入している40歳以上65歳未満の従業員から徴収します。介護保険料の保険率は1.19%、標準報酬月額に1.19%を掛けた額が月額保険料になります。
 標準報酬月額ごとに保険料月額を一覧表にした「健康保険標準報酬月額及び保険料額表」がありますので、これを使えば簡単に健康保険料月額、介護保険料月額を求めることができます。

(2)厚生年金保険料の控除

厚生年金保険は、従業員の老後の補償のために年金を支給したり、障害や死亡といった事故にあったときに年金や一時金の給付をしようというものです。厚生年金保険料の料率は一般の場合15.704%で、標準報酬月額に15.704%を掛けた額が保険料月額になり、これを会社(事業主)と従業員(被保険者)が折半して負担します。端数が出た場合には会社が負担することになります。こうして計算した従業員負担分を給与支給総額から控除します。
 健康保険と同様に、標準報酬月額ごとに保険料月額を一覧表にした「厚生年金保険標準報酬月額・保険料負担区分表」がありますので、これを使えば簡単に求めることができます。

・標準報酬月額及び保険料額表の使い方

例えば、ある従業員の報酬月額が20万3000円とします。標準報酬月額及び保険料額表より、報酬月額が19万5000円から21万円までの人については、標準報酬月額が20万円と求めることができます。したがって、報酬月額が20万3000円のこの従業員の標準報酬月額は20万円です。
 標準報酬月額が20万円の行の健康保険の欄を見ると、介護保険に該当しない人の場合には8200円、介護保険に該当する人の場合には9390円(介護保険料を含んだ額)であることがすぐにわかります。この金額を毎月の給与から健康保険料および介護保険料として控除するわけです。
なお、この場合の9390円と8500円の差額、890円が介護保険料の金額です。
 また、この行の厚生年金保険の欄を見ると、一般の場合には、保険料が1万5704円であることがすぐにわかります。これが毎月の給与から差し引く厚生年金保険料です。

(3)雇用保険料の控除

雇用保険は、従業員が失業した場合に保険給付を行なって収入を確保できるようにすることなどを目的としています。雇用保険の保険料率は、会社の事業の種類によって、次の三つに別れています。
 ① 一般の事業
   (事業主負担率7/1000、被保険者負担率4/1000)
 ② 農林水産・清酒製造業
   (事業主負担率8/1000、被保険者負担率5/1000)
 ③ 建設業
   (事業主負担率9/1000、被保険者負担率5/1000)
 給与支給総額にこの保険料率を掛けた額が保険料月額になり、これを会社(事業主)と従業員(被保険者)が負担します。雇用保険では会社の負担割合が多くなっています。
 また、健康保険や厚生年金保険は標準報酬月額にもとづいて保険料が決められますが、雇用保険は給与支給総額(雇用保険では賃金額といいます)にもとづいて保険料が決められます。したがって、給与支給総額が毎月少しでも増減すれば、保険料も増減するのが通常です。
 雇用保険についても、等級ごとに一覧表にした「一般保険料額表(雇用保険)」がありますので、実務の上ではこれを使って給与支給総額(賃金額)から控除する保険料を求めます。

5. 源泉所得税を控除する

◎源泉徴収税額表を使って税額を求める

源泉徴収すべき税額を求めるためには、まず、支払う給与について月額表と日額表のいずれかを使用するのか、甲欄、乙欄、丙欄のうちのどの欄が適用されるのかを判定しなければなりません。
 次に、所得税は課税対象となる給与額から社会保険料を差し引いた後の金額にかかるため、「社会保険料控除後の給与等の金額」を求める必要があります。社会保険料の控除のしかたについては、既に説明したところです。
 ここで注意すべきことは、社会保険料は給与の支給総額から差し引くのではなく、課税対象となる給与額から差し引くということです。通勤手当のように非課税であるものを支給している場合には、給与の支給総額から通勤手当等を差し引いて、課税対象となる給与額を求め、その金額から社会保険料を差し引きます。
 さらに、ほとんどの従業員が適用される甲欄に使用する場合には、「扶養親族等の数」を求めなければなりません。所得税は扶養親族等の数によって税額が異なるからです。

●扶養親族等の数の求め方

扶養親族等の数は、従業員から提出してもらった「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」をもとに求めます。
 その場合の扶養親族等の数は次①~③を合計することによって計算します。
 ①控除対象配偶者と扶養親族の合計数
 ②本人が障害者、老年者、寡婦、寡夫または勤労学生に該当するときは、その該当する数
 ③控除対象配偶者や扶養親族のうちに、障害者または同居特別障害者に該当する人がいるときは、その人数
 このように扶養親族等の数は、配偶者や扶養親族の人数に、本人が障害者や老年者であるとき、扶養親族の人数に、本人が障害者であるときは、その該当する数をプラスしたものになります。
 税法上の扶養親族とは、六親族内の血族と三親等内の姻族のうち、従業員と生計を同じくし、かつ、合計所得金額が38万円以下の人をいいます。
 なお、年の途中で扶養親族等の数に異動があった場合には、あらためて「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。
 そして、申告書を受け取った後に支払う給与から新しい扶養親族等の数にもとづいて源泉徴収することになります。

●源泉徴収税額を求める

使用する源泉徴収税額表が決まり、社会保険料控除後の給与等の金額と扶養親族等の数がわかれば、源泉徴収すべき税額は簡単に求めることができます。
 月額表の甲欄を使用する人については、表の左側の欄に「その月の社会保険料控除後の給与等の金額」の金額が大きくなるごとに○○円以上○○円未満と表示されていますので、該当する金額を見つけます。
 その金額の行を右側に見ていけば、扶養親族等の数ごとに源泉徴収すべき金額が定められています。
 甲欄の扶養親族等の数は7人までしかありません。扶養親族等の数が7人を超える場合には、扶養親族等が7人であるものとして求めた税額から、扶養親族等の数が7人を超える一人ごとに1580円を控除した金額が源泉徴収すべき金額です。

 月額表の乙欄を使用する人については、「その月の社会保険料控除後の給与等の金額」欄の該当する行と乙欄との交わるところに記載された金額が求める税額です。
 扶養親族等の数は原則として関係ありません。
 ただし、「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出があった場合には、扶養親族1人ごとに1580円を控除した金額が求める税額になります。

6. 住民税を控除する

◎住民税額は市区町村が通知してくる

社会保険料、所得税の次に住民税を控除します。住民税とは、市区町村民税と都道府県民税を総称したものをいいます。住民税を会社で天引することを特別徴収といいます。
 住民税は、社会保険料や所得税と違って、会社で計算する必要はなく、市区町村が通知してきた金額を控除すればよいことになっています。
 会社では、毎年1月31日までに、市区町村に対して前年の給与支給総額などを明記した「給与支払報告書」を提出し、市区町村がこれと毎年1月1日の住民基本台帳にもとづいて住民税額を計算します。
 市区町村は計算した税額を、毎年5月31日までに「市区町村民税・都道府県民税特別徴収額通知書」に記載して会社に送付することになっていますので、これにもとづいて住民税を徴収することになります。
 特別徴収額通知書には、特別徴収義務者(会社)用と納税義務者(本人)用がありますので、納税義務者用は各従業員に渡します。これで従業員は自分の住民税額を知ることができます。

●住民税額の月次変動に注意する

住民税の特別徴収では、年税額を12で割った金額を毎年6月から翌年5月まで一年間にわたって毎月徴収します。ただし、100円未満の端数がある場合には、これを6月分に加算して調整することになります。したがって、住民税の6月分の月割額は、7月以降の月割額よりも金額が大きくなるのが通常です。市区町村から送付される特別徴収額通知書は、6月分と7月以降分に分かれています。
 そのため住民税額は、その年の1月から5月までの月割額、6月分の月割額、7月から12月までの月割額が異なるのが一般的ですので注意する必要があります。
 なお、住民税は前年の所得に対してかかるものであるため、前年の所得がなかった人や一定金額以下であった人については、税額がありません。

7. 社宅・寮費、親睦会費、財形貯蓄などを控除する

◎法定控除のほかに労使協定による控除がある

社会保険料、所得税および住民税は、給与を支給する際に必ず控除しなければならないもので、これを法定控除といいます。
 このほか会社によって社宅・寮費、親睦会費、財形貯蓄など控除して給与を支給することがあります。これらは会社が勝手に給与から控除することができないことになっています。
 社宅・寮費など法定控除項目以外のものを給与から控除するには、会社と従業員の代表者があらかじめ協定を結んでおかなければなりません。これは労働基準法に定められているもので、この協定によって給与から控除することを労使協定による賃金控除といい、略して協定控除ということにします。

   協定の相手となる従業員の代表は、従業員の過半数を組織する労働組合があるときはその労働組合、そのような労働組合がないときは従業員の過半数を代表する人です。協定内容は書面にしておく必要があります。
 協定控除として給与から差し引く項目があるときは、労使協定による書面があることを確認する必要があります。
 また、就業規則には、例えば、次のように記載しておくとよいでしょう。

第○条  給与から社会保険料、所得税、住民税及び従業員代表との協定により
       書面で定めたものを控除する。

8. 給与の差引支給額を支払う

◎給与は「賃金支払いの五原則」に従って支払う

労働基準法によれば、賃金は、①通貨で、②直接従業員に、③その金額を、④毎月一回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければなりません。これを「賃金支払いの五原則」といいます。

●通貨払いの原則

給与は通貨で支払わなければなりません。通貨とは、1万円札のような紙幣と500円玉のような硬貨のことです。したがって、いわゆる現物給与は、原則として認められません。ただし、労働協約(労働組合と使用者との書面による契約)に別段の定めがある場合には、現物給与も認められます。
 また、通貨の代わりに小切手や手形で支払うことも、原則として認められていません。
 給与の口座振込は、従業員の同意を条件に認められます。この同意は口頭でも書面でもかまいませんが、従業員から「給与の振込先金融機関の名称、支店名、口座の種類、口座番号を記入し、署名、押印した書面」(様式は問わない)を提出してもらうと便利です。
 なお、口座振込の場合は、複数の金融機関の中から従業員が選べるようにし、従業員の本人名義の口座に振込むこと、給料日の当日午前10時までには従業員が全額引き出せるようにしておくことなどの配慮が必要です。

●直接払いの原則

給与は従業員本人に直接に支払らなければなりません。親が子に代わって給与を受け取ったり、仕事を紹介した人が従業員本人に代わって給与を受け取ったりすることは、禁止されています。
 ただし、給与の支払日に従業員本人が会社を休んでいたり、長期の出張中であったりした場合などに、使者としての配偶者などに支払うことは認められています。

●全額払いの原則

従業員として受け取ることができる給与については、会社はその全額を支払わなければなりません。
これは強制貯金などを禁止して、給与の全額が確実に従業員の手に渡ることを保障するものです。
 ただし、法定控除、協定控除、懲戒処分としての賃金カットおよび給与計算の端数については、例外として、控除が認められています。
 毎月の給与の差引金額額に100円未満の端数が生じた場合には、50円未満を切り捨て、50円以上を100円に切り上げることができます。また、差引支給額に1000円未満の端数が生じた場合には、1000円未満の端数を翌月の給料日に繰り返して支払うことができます。

●毎月払いの原則

給与は少なくとも毎月一回は支払わなければなりません。例えば、2ヵ月に一回、2ヵ月分の給与をまとめて払うことは認められません。週給制のように1ヶ月に二回以上を払うことはかまいません。
 なお、勤続手当などのようにその算定期間が1ヵ月を超える場合は、この原則は適用しません。

●一定期日払いの原則

給与は一定期日に支払わなければなりません。月給制の場合には、毎月10日、毎月25日、毎月末、週給制の場合には毎週月曜日、のように支払期日を特定することをいいます。
 ただし、賞与や退職金のように臨時に支給されるものは、毎月払いの原則と一定日払いの原則は適用されません。

9. 控除した社会保険料を納付する

◎健康保険・介護保険・厚生年金保険料は毎月、雇用保険は年一

●健康保険・介護保険・厚生年金保険料の納付

毎月の給与から控除された社会保険料のうち、健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料は事業主(会社)負担分と合わせて、翌日末日までに社会保険事務所に納付することになっています。
 納付すべき金額は、会社で計算するのではなく、社会保険事務所の方で保険料を計算し、「納入告知書」を送ってきます。会社ではその納入告知書にもとづいて納付します。また自動振替の制度もありますので、手続きをすれば希望する金融機関の口座から納入通知額が自動的に引き落とされます。
 健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料は会社と従業員が二分の一ずつ負担するので、「納入告知書」に記載された保険料は、従業員の給料から控除した額と事業主負担額の合計額となります。また、原則として従業員から控除した金額を2倍にすれば、告知書の金額と一致するはずです。
 ただし、児童手当拠出金は全額会社負担になりますので、2倍にしても一致しないことがあります。

   ところで健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料は、前月分の保険料を、当月支払われる給与から控除し、それを当月末までに納付することになります。したがって、例えば、11月分の保険料については、12月に納入告知書が送られてきますので、12月に支払う給与から控除して、会社負担分と合わせて12月末までに納付することになります。

10. 控除した源泉徴収税を納付する

◎徴収した月の翌月10日までに納付するのが原則

会社が給与を支払う際に控除した源泉徴収税は、税理士等の報酬を支払う際に控除した源泉徴収税などとともに、1ヵ月分をまとめて所轄の税務署に納付することになっています。
 源泉徴収した月の翌日10日までに納付するのが原則です。
 納付にあたっては納付書(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)を使用します。納付書は税務署から送られてきます。もし、ない場合には税務署でもらうことができます。
 納付書に所定事項を記載して、納付すべき税額の現金と一緒に、会社所在地の所轄の税務署に納付することになります。税務署で直接支払うこともできますが、郵便局や銀行などの金融機関でも支払うことができます。

●10人以下の会社なら半年に一度納付すればよい

源泉徴収税は控除した金額を翌月10日までに納付するのが原則ですが、給与の支払を受ける人が常時10人未満の会社では、源泉徴収税の納付を半年に一度することができます。これを納期の特例といいます。
 納期の特例を受けるためには、所轄の税務署長に対して「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書」を提出して、承認を受ける必要があります。この承認があると、1月から6月までの間に支払った給与等に対する源泉徴収額は7月10日までに、7月から12月までの間に支払った給与等の源泉徴収額は翌年の1月20日までに納付すればよいことになっています。
 なお、期日までに源泉徴収税を納付しないと、不納付加算税(ペナルティとして納付すべき税額10%または5%相当額)や延滞税(利息相当額として未納額に対して最初の2ヵ月は年7・3%、それ以降は14・6%)がかかることになりますので注意してください。

11. 控除した住民税を納付する

◎所得税と同じく翌月10日までに納付するのが原則

会社は従業員の給与から特別徴収した住民税の月割額を、翌月の10日までに通知を受けた市区町村へ納付することになっています。納期限は所得税と同じです。
 税額の納付は、市区町村から送られてきた納付書を使います。
 納付書とその税額に相当する現金を市区町村の窓口に持参するか、郵便局や銀行等の金融機関で納付します。

●住民税にも納期の特例がある

住民税についても源泉所得税と同じように、納期の特例があります。
 従業員が10人未満の会社については、市区町村の承認を受ければ、納付を半年に一度とすることができます。
 納期の特例が認められると、6月から11月までの分を12月10日までに納付、12月から翌年5月までの分を6月10日までに納付することになります。
 住民税にも納期の特例があるということは、意外と知られていないようです。
 納期の特例が認められると納付事務手続が軽減されますし、資金繰りもラクになるので、おおいに利用してください。
 なお、所得税と住民税では、納期の特例の期間設定と納付日が違うことに注意してください。

12. マイナンバー 社会保障・税番号制度

 【 マイナンバーQ&A(事業者向け) 】

Q1 民間事業者はどのような場面でマイナンバーを扱うのですか。

A1 民間事業者でも、従業員やその扶養家族のマイナンバーを取得し、給与所得の 源泉徴収や社会保険の
     被保険者資格取得届などに記載し、行政機関などに提出する必要があります。
     原稿料の支払調書などの税の手続では原稿料を支払う相手などのマイナンバーを取得し、取り扱うことに
     なります。また、金融機関が作成する支払調書にもマイナンバーの記載が必要になります。

Q2 マイナンバーを使って従業員や顧客の情報を管理することはできますか。

A2 マイナンバーは法律や条例で定められた社会保障、税、災害対策の手続以外で 利用することはできま
     せん。これらの手続で必要な場合を除き、仮に従業員などの同意があったとしても、民間事業者が従業
     員や顧客のマイナンバーの提供を求めたり、マイナンバーを含む個人情報の収集や保管をしたりするこ
     ともできません。

Q3 マイナンバーを取り扱う業務の委託や再委託はできますか。

A3 例えば、税理士や社会保険労務士、関連業務を提供する企業などに、マイナンバーを取り扱う業務の
     全部又は一部を委託することは可能です。また、委託を受けた者は、委託を行った者の許諾を受けた場
     合に限り、再委託が 可能です。
     委託や再委託を行った者は、個人情報の安全管理のため、委託・再委託を受けた者に、必要かつ適切
     な監督を行わなければなりません。委託・再委託を受けた者には 委託を行った者と同様にマイナンバー
     を適切に管理する義務が生じます。

Q4 従業員などのマイナンバーはいつまでに取得する必要がありますか。

A4 従業員にマイナンバーが通知されて以降、取得は可能ですが、マイナンバーを 記載した法定調書など
     を行政機関などに提出するまでに取得すればよく、平成28年1月のマイナンバーの利用開始にあわせ
     て取得する必要はありません。
     例えば、給与所得の源泉徴収票であれば、平成28年1月の給与支払から適用され、中途退職者を除き、
     平成29年1月末までに提出する源泉徴収票からマイナンバーを記載する必要があります。

Q5 従業員などからマイナンバーを取得する際、どのような手続が必要ですか。

A5 マイナンバーを取得する際は本人に利用目的を明示するとともに、他人へのなりすましを防ぐために本
     人確認を必ず行ってください。

Q6 税の源泉徴収のために取得したマイナンバーを別の目的で利用することはできますか。

A6 マイナンバーを含む個人情報については、本人の同意の有無にかかわらず、利用目的の達成に必要な
     範囲を超えて利用することはできません。
     なお、従業員からマイナンバーを 取得する際に、源泉徴収や雇用保険の手続など、マイナンバーを利用
     する事務や利用目的をまとめて明示して取得し、利用することは可能です。

Q7 マイナンバーの提供を拒まれた場合、どうすればいいですか。

A7 社会保障や税の決められた書類にマイナンバーを記載することは法令で定められた義務であることを周
     知し、提供を求めてください。それでも提供を受けられないときは、書類の提出先の指示に従ってください。
     なお、税の調書等については、国税庁がQ&Aを示しており、まずはマイナンバーの記載は法律で定めら
     れた義務であることを伝え、提供を求め、それでもなお、提供を受けられない場合、提供を求めた経過等
     を記録、保存するなどすれば、マイナンバーの記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないとい
     うことはない、とされています。

Q8 契約の締結時点で支払金額が定まっておらず、支払調書の提出要否が明らかで ない場合、契約締
     結時点でマイナンバーの提供を求めることはできますか。

A8 顧客との法律関係等に基づいて、マイナンバー関係の事務が発生することが予想される場合として、
     契約の締結時点でマイナンバーの提供を受けることができると解されます。その後、マイナンバー関係の
     事務が発生しないことが明らかになった場合には、できるだけ速やかにマイナンバーを廃棄・削除する必
     要があります。

Q9 マイナンバーを取得する時の本人確認はどのように行えばいいですか。

A9 マイナンバーを取得する際には、正しい番号であることの確認(番号確認)と、 番号の正しい持ち主であ
     ることの確認(身元確認)が必要です。原則として、
     ① 個人番号カード
     ② 通知カード又はマイナンバーの記載された住民票の写しと運転免許証など
     で確認する必要があります。
     また、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかに判断できると認められるときは身元確
     認書類を不要とすることも認められます。

Q10 本人確認はマイナンバーの提供を受けるたびに行わなければならないのですか。

A10 原則、マイナンバーの提供を受ける都度、本人確認を行う必要があります。
     ただし、2回目以降は個人番号カードなどの提示を受けることが困難であれば、初回に本人確認を行って
     取得したマイナンバーの記録と照合する方法でもかまいません。

Q11 収集・提供したマイナンバーに誤りがあった場合、事業者に責任は及びますか。

A11 提供等したマイナンバーに誤りがあった場合の罰則規定はありません。
     マイナンバー法により、本人からマイナンバーの提供を受けるときは本人確認が義務付けられており、
     個人情報保護法でも正確性の確保の努力義務が課されていますので、誤りのないよう、マイナンバー
     取得時の確認の徹底をお願いします。

Q12 民間事業者がマイナンバーを取り扱う際に注意すべきことはありますか。

A12 マイナンバーは法律又は条例に定められた利用範囲を超えて利用することはできません。
     マイナンバーを含む個人情報をむやみに提供することもできません。マイナンバーを取り扱う際は、漏え
     い、滅失、毀損を防止するため、適切な管理のための措置を講じる必要があります。特定個人情報保護
     委員会のガイドラインを参照してください。
     民間事業者においては、これまでも従業員の給与や家族構成など個人情報を適切に管理し、漏えい
     防止にも取り組まれていると思います。過度に心配していただく必要はありませんが、マイナンバー導入
     を機会に対策の点検は行っていただきたいと思います。

Q13 従業員などのマイナンバーが変更されたことを民間事業者はどのように知る ことができますか。

A13 マイナンバーが変更されたときは申告するよう従業員などに周知するとともに、毎年の扶養控除申告書
     の提出時など、定期的にマイナンバーの変更の有無を確認することが考えられます。

Q14 故意でなく、過失でマイナンバーやマイナンバーを含む個人情報を漏えいしてしまった場合でも罰則
     が適用されるのですか。

A14 マイナンバーは法律又は条例に定められた利用範囲を超えて利用することはできません。過失による
     情報漏えいに、いきなり罰則ということはありません。
     ただし、漏えいの様態によっては、特定個人情報保護委員会からの指導や改善命令が出される可能性
     はあります。また、民事の損害賠償請求がなされる可能性があります。企業の信用・信頼の 観点からも
     適切な安全管理措置の実施をお願いします。